Asinus's blog

西牟田祐樹のブログです。

Logica "cum sit nostra"の仮言命題

はじめに

 逸名著者によるLogica "cum sit nostra"の仮言命題に関する箇所を訳出する。テキストはL.M. de Rijk, Logica Modernorum: a Contribution to the History of Early Terminist Logic: Vol II - Part II, Van Gorcum,1967 (pp.425-426)を使用した。

 本作品の仮言命題についての特徴として、一つは真理値が明示的に書かれている点が挙げられる。本作品に類似する作品ではArs Buranaは真理値について述べており、Ars EmmeranaとLogica "ut dicit"は真理値について言及していない。もう一つの特徴は条件的、連結的、分離的の三つに加えて原因的、時間的の二つの組み合わせが加えられていることである。時間的命題はボエティウス以降用いられていた。時間的命題と対となるように場所的命題が発生したと考えられるが、本作品では場所的命題は言及されていない。

 本作品での選言命題で用いられている例は「君は人間であるまたは君はロバである」である。この例は両方の真理値が真であることはないと言う意味では排他的である。しかしもし「君が人間である」が偽であったとしても「君はロバである」が真であるとは限らない(「君はカバである」が真であるかもしれない)という意味では選択肢が完全な枚挙ではなく、選言的ではない。本作品の仮言命題は命題「昼であるまたは夜である」に比べれば両立的であるが、「ソクラテスが走るまたはプラトンが議論する」(両方とも真であり得る)に比べれば排他的である。

 

翻訳

 仮言命題とは条件を伴って前件(antecedens)と後件(consequens)を持つもののことである。あるいは、仮言命題とは二つの定言命題を持つもののことである。例えば'si homo est, animal est'がそうである。

 前件とは接続詞の直後に置かれているもののことである。そして後件とは接続詞の後で[後ろ]半分に置かれているもののことである。

 仮言命題には五つの種がある。つまり条件的命題、連結的命題、分離的命題、原因的命題、時間的命題である。

条件的命題とはそれにおいて語'si'が置かれているようなもののことである。例えば 'si tu es homo, tu es animal' (もし君が人間ならば、君は動物である)がそうである。'homo est'が一つの定言命題であり、'animal est'がもう一つの定言命題である。

 連結的命題とはそれにおいて語'et'が置かれているようなもののことである。例えば 'tu es homo et tu es animal' (君は人間でありかつ君は動物である)がそうである。そして連結的命題は両方の部分命題が真である時に真である。

 分離的命題とはそれにおいて接続詞'vel'によって諸命題が分離されているようなものである。例えば 'tu es homo vel tu es asinus' (君は人間であるか君はロバである)がそうである。そして分離的命題は片方の部分が真である時に真である。

 原因的命題とはそれにおいて語'quia'が置かれているようなもののことである。例えば 'quia tu es homo, tu es animal)(君は人間であるので、君は動物である)がそうである。そして原因的命題は前件が後件の原因であるときに真である。

 時間的命題とはそれにおいて語'dum'が置かれているようなもののことである。例えば 'dum tu curris, tu moveris' (君が走る間、君は移動する)がそうである。そして時間的命題は両方の部分が同じ時間において真である時に真である。