Asinus's blog

西牟田祐樹のブログです。

Dialectica Monacensisの仮言命題

はじめに

逸名著者によるDialectica Monacensisの仮言命題に関する箇所を訳出する。テキストはL.M. de Rijk, Logica Modernorum: a Contribution to the History of Early Terminist Logic: Vol II - Part II, Van Gorcum,1967 (pp.484-485)を使用した。

内容について重要な点はまず第一に条件命題が再分割されている点である。本作品は原因命題、場所命題、時間命題の位置付けについて裏付けを与えてくれる資料である。

もう一つの点は選言に関して排他的選言と両立的選言の両方が説明されている点である。排他的選言がdisjunctivaと呼ばれ、両立的選言がsubdisjunctivaと呼ばれる。排他的選言の方が優先されており、両立的選言が副次的なものと見なされている。連言と選言を双対的・並行的に扱うのであれば連言が使用されるようになった時に選言は両立的選言を使うべきであるが、この作品ではまだそのようになっていない。

翻訳

 続いて仮言命題について定めることが残されている。仮言命題(ypothetica propositio)とはその構成要素に二つの提言命題を持つもののことである。ここで同様に一つの仮言命題は二つの異なる仮言命題から、あるいは一つの仮言命題と一つの定言命題から構成されることが出来ると言おう。

 ypotheticaはsubである'ypo'とpositioである'thesis'に由来してそのように言われる。それゆえypotheticaはsubpositivaと同様である。それゆえにypothetica(仮言命題)は独立的にではなく、何かを仮定することによって(subpositione)何かを言明するものである。ボエティウスによれば仮言命題の内で連結命題と分離命題は言明するとは考えられず、条件命題のみが言明すると考えられることを理解せよ。

 一般に言われているには仮言命題には三つの種がある。条件命題 -厳密で本来の仮言命題と呼ばれる-と連結命題と分離命題である。

 条件命題とはそれにおいて何かが何かに条件の下で述語づけられているもののことである。仮言命題は四つの種に再分割される、つまり時間命題、場所命題、原因命題、そしてsubconditionalis(準仮言命題)と呼ぶようなものである。subconditionalisとはその諸部分が条件[の接続詞]'si'で結合されているもののことである。そのような条件命題の条件[の接続詞]'si'が直接付随する一方[の部分]は前件と呼ばれ、他方の部分は後件と呼ばれる。そのような条件命題が真であるためには措定された前件から必然的に後件が措定されることが要求される。例えば「もしソクラテスが人間ならば、ソクラテスは動物である」がそうであり、あるいは尤もらしい[命題の]例としては「もしこの者が母親であるならば、このものは愛する」がそうである。

 時間命題とはその諸部分が時間の副詞によって結合されているもののことである。例えば「太陽が大地の上にある間は昼である」がそうである。

 場所命題とはその諸部分が場所の副詞によって結合されているもののことである。例えば「プラトンが議論する所でソクラテスは走る」がそうである。

 原因命題とはその諸部分が原因の接続詞によって結合されているもののことである。例えば「ソクラテスが勉強するのでソクラテスが上達する」がそうである。<欠落>1  語られたようなこれらの四つの命題は本来の(proprie)仮言命題と呼ばれる。本来の仮言命題とはそれにおいて肯定されたものは何であれある条件の下で言明されるようなものである。

 連結命題とはその諸部分が連結の接続詞によって結合されているもののことである。例えば「ソクラテスは人間でありかつ(et)ブルネッルスはロバである」がそうである。

 分離命題とはその諸部分が分離の接続詞'vel'によって結合されているもののことである。例えば「ソクラテスは人間であるまたはプラトンはロバである」(Socrates est homo vel Plato est asinus)がそうである。 

 分離の接続詞'vel'が使われている時は常にsubdisjunctive(準分離命題)であることに注意すべきである。分離命題が使われる時は分離命題が真であるためには一方の部分が真であり他方の部分が偽であることが要求される。準分離命題が使われる時は準分離命題が真であるためには一方の部分あるいは両方の部分が真であることが要求される。[言語的]慣習に従って[分離的]項辞を用いる時にこの最後の種類[の分離命題]が生じる。


  1. subconditionalis propositioの説明が続いていたと思われる。