Asinus's blog

西牟田祐樹のブログです。

ローレンツェンのゲーム意味論への転回

ドイツの論理学者・哲学者であるポール・ローレンツェン(Paul Lorenzen 1915~1994)の仕事はざっくり大きく二つの時期に分けられる1。一つはゲーム意味論に取り組む前の"Einführung in die operative Logik und Mathematik", 1955を主要な成果とするような操作的論理の時期である。もう一つは論文としては"Logik und Agon", 1958から始まる(証明論的な)ゲーム意味論の時期である2

ゲーム意味論関連の彼の著作の中でも操作的論理の理論に現れていたような説明はよく用いられている。その意味でこれら二つのアプローチには連続性がある。だがなぜローレンツェンがゲーム意味論を考えるようになったかという立場の移行についての説明は彼の著作内では(明確には)言及されていないように思われる。当時の問題意識について弟子のKuno Lorenzが以下の文献で詳しく説明していたので書き留めておく。

Kuno Lorenz, Basic objectives of dialogue logic in historical perspective, Synthese 127, pp.255-263, 20013.

ローレンツェンの立場の移行を「集合」から「無限」の問題へのローレンツェンの関心の移行によって説明している研究もある。

Carolin Antos, Conceptions of infinity and set in Lorenzen’s operationist system - PhilArchive

Lorenzが言及している移行のきっかけとなった問題は一言でまとめれば以下のような問題である。

In particular, the operative notion of derivation, which is essential to the definition of the operative notion of proposition, is, in general, undecidable4.


  1. 他にも重要な仕事があるがここでは割愛する。それらについては以下の文献を参照。
    http://www.cse.chalmers.se/~coquand/lorenzen.pdf

  2. Andreas Blass(1992)による線形論理のゲーム意味論はローレンツェンの影響を受けている (“We present a game (or dialogue) semantics in the style of Lorenzen (1959) for Girard’s linear logic (1987)”)。
    https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0168007292900739

  3. 特にp.257を参照。Lorenzenが1957/58にプリンストン高等研究所に招聘されてAlfred Tarskiと議論を行ったのがきっかけだったらしい。

  4. 以下の説明からの引用
    Dialogical Logic (Stanford Encyclopedia of Philosophy)