Asinus's blog

西牟田祐樹のブログです。

読書メモ: マイモニデス『論理学』(1)

はじめに

マイモニデスのMakalah Fi-sina'at Al-mantikのIsrael Efrosによる英訳が以下で読むことができる。

http://www.cs.technion.ac.il/~janos/MAIMONIDES-TREATISE-ON-LOGIC.pdf

私は原典のアラビア語を満足に読む能力がないので専ら英訳を用いて読んだ。内容の説明は網羅的ではない。

本書は全部で14章と序文からなる。

内容

序文

  • 本書の目的について語られている。

  • 法学を修めアラビア語が明瞭かつ雄弁である人が論理学を学んだ人に、論理学でよく現れる用語を簡潔に説明するように求めた。そして本書はそのような要求を満たすように書かれている。

  • よって法学の知識がありかつアラビア語話者であるような人が対象読者である。論理学(弁証論)の内容をカリキュラムとしてある程度詳細に学びたい人は主要な対象読者ではない。そして最後には政治学に関する短い内容が入っていたりと狭い意味での論理学以外の内容も含まれている。またアラビア語の文法家の用語法と論理学の用語法をそれぞれ説明していたりと文法学への目配りもされている。

1章

  • 主語・述語・命題・言明文の用語について実例を用いて簡潔に説明されている。

  • 本書では章の末尾に説明した用語が列挙されており、簡単に参照できるように配慮されている。例: 'All the terms explained in this chapter are four: predicate, subject, proposition, enumciative sentence'. この列挙の順番は章で説明された順番通りではない。

  • 1章は冒頭で'The noun which the Arabian grammarian a beginning, the logicians calls a subject, [...]'と用語の説明だけが与えられており、名詞や主語についての定義は説明されない。

  • 用語の説明の後にはすぐに例 'Zayd stands'と'Zayd does not stand', 'Zayd is not standing'等が述べられ、それらの例を通じて(主語と述語という)用語の意味が具体的に把握できるようになっている。

  • 上の例ではコピュラがない文が例文となっているのでコピュラがない命題が許容されている。'stands'が述語と説明され、動詞が述語になっている。

  • 肯定であれ否定であれ主語と述語からなる表現全体が命題である。

  • 命題は言明文とも呼ばれる。

2章

  • 14個の用語: 肯定, 否定, 全称肯定, 特称否定, 全称否定, 特称否定, 不定, 単称, 全称否定記号, 特称否定記号, 全称肯定記号, 特称肯定記号, 命題の量, 命題の質.

  • 特称否定に関しては三つの例文が述べられる, 'Not every man writes' or 'Some men do not write' or 'Not some men write'. この三つは区別されないが、'not every'が特称否定記号として採用される。

  • 不定命題は常に特称命題とみなされる。'Men write'は'Men do not write'と同じ力を持つ。

  • 単称命題を全称として扱うのか特称として扱うのかについては説明されていない。

3章

  • 5個の用語: binary sentence, trinary sentence*1, 繋辞, 語, 様相.

  • 述語が動詞、あるいは他の語を伴っている動詞であるような任意の命題はbinaryと呼ばれる。例: 'Zayd stood', 'Zayd killed Abū-Bekr', 'Zayd did not stand', 'He did not kill Abū-Bekr'.

  • 主語と述語を結合する第三の要素を必要としないのでこれらの命題はbinaryと呼ばれる。

  • 述語が名詞である時, 命題はternaryと呼ばれる。

  • コピュラは述語が主語に特定の時に内属することを示している。

  • 様相の語は述語が主語に内属するあり方を示すために付け加えられる。

  • 様相の語: possible, impossible, probable, necessarily, obligatory, necessary, ugly, beautiful, fitting, incumbent, etc.

  • 様相を含む命題の例: 'It is possible that man will write', 'Every man is necessarily an animal', 'Zayd must stand', 'It is ugly for Zayd to insult', 'It is fit that Zayd should learn', 'It is probable that Zayd will so act'.

4章

  • 13個の用語: 対当関係, 反対対当, 矛盾, 反対, 矛盾対当, 小反対対当, 必然命題, 不可能命題, 必然的命題, 絶対命題, 可能命題, 実在命題

  • すべての肯定または否定は、肯定または否定するものに関して必ず必然であるか可能であるか不可能であるかのいずれかである。

  • 用いられている例: 'Every man is an animal': 必然, 'Every man is a bird': 不可能, 'Some men write': 可能.

  • 必然、不可能、可能はそれぞれ命題に関して言われている。つまり命題の分類になっている。

  • 可能と不可能は必然的に(of necessity)と言われ得る。上の例は'Man is of necessity an animal', 'Man is of necessity not a bird'とも言われ得る。

  • イードに関して彼が生まれた時に、'This Zayd is writing'あるいは'This Zayd is not writing'と述べる時、この命題は真に可能的である。

  • ある人が実際に書いているときには、絶対的命題、あるいは実在命題と呼ばれる。

  • 可能は一方が実現される前の未来に関してであり、その実現が起こったときには可能性は除去される。

  • イードが我々のそばに立っている時、彼が立っていることはもはや可能性ではなく、必然と類似したものである(but resembles something necessary)。必然だとは言い切っておらず、やや微妙な言い方をしている。

5章

  • 4個の用語: 命題の換位、命題の逆(inversion)、換位された命題、逆の命題

6章

  • 7個の用語: 三段論法、前提、結論、帰結、中名辞、初項、大名辞、終項、小名辞、大前提、小前提

  • 二つの命題から別の命題が従うようにそれらが何らかの形式で結合されるならば、共通する項を持つ二つの命題の結合が三段論法である。

  • この説明のみからは結論が三段論法の定義に(直接に)含まれているのかは明確ではない。

  • 三段論法の例: 'Every man is an animal' and 'Every animal is sentient', the conclusion for this syllogism being 'Every man is sentient'.

  • 7章の説明より本書の三段論法の定義(として想定できるもの)には結論が含まれていないと思われる。

*1:適切な訳が思いついていない。