Asinus's blog

西牟田祐樹のブログです。

イシドルス『語源』翻訳 XII-2: 25-28『獣について』(イヌ)

はじめに

テキストはOroz Reta J. and Marcos Casquero, M.-A (eds), Etymologias: Edition Bilingüe, Madrid, 1983. を使用した。Berney, Lewis, Beach and Berghof, The etymologies of isidore of seville, Camblidge University Press, 2006の英訳を参照した。

翻訳

Canis(イヌ)というラテン語の名前はギリシア語が語源であると思われる。なぜならイヌはギリシア語ではκύωνと呼ばれるからである。canisという名前は吠える鳴き声(canor)から名付けられていると考える者もいる。なぜならイヌは大きな声で鳴くからである。それゆえcanere(鳴くこと)からも名付けられている。そしてイヌよりも鋭敏な動物は存在しない1。なぜなら他の動物よりもより多くの感覚(sensus)を有しているからである。イヌのみが自分の名前が分かっている(recognoscere)。イヌは自分の主人2を愛し(diligere, 尊重する)、主人の家を守り、自分の主人のため自分の命を捧げる。自発的に主人と一緒に獲物に向かって走る。さらに自分の主人の亡骸を放置してはおかない。要するに、人間を離れてはあることができないことがイヌの本性(natura)に属している。犬は二つの特性を持っている、勇敢さ(fortitudo, 勇気)と素早さ(velocitas)である。

誤用ではどのような獣の子供でもcatulus(動物の子、子イヌ)と呼ばれる。しかし範囲の縮小によって厳密にはイヌの子供がcatulusと呼ばれる。

Lyciscus(狼犬)はプリニウスが狼と犬の間で生まれた犬であると言っているように3、それらの間で偶然に配合されたときにそのように呼ばれる。さらにインド人には夜の森で繋がれた雌の犬を野生の虎と交配するという風習がある。虎は雌犬の上に乗りかかる。そしてそのような配合からはライオンに掴みかかって打ち負かすほどに鋭敏で強い犬がいつも生まれる4


  1. cf. プラトン『国家』第二巻, 275D-376C

  2. 原文は複数形。

  3. プリニウス『博物誌』VIII 148.
    The Project Gutenberg eBook of The Natural History of Pliny, Volume II., by Pliny the Elder.
    LacusCurtius • Pliny the Elder's Natural History — Book 8

  4. cf. アイリアノス『動物奇譚集』4.20.