Asinus's blog

西牟田祐樹のブログです。

イシドルス『語源』翻訳 I-29『語源について』

はじめに

テキストはOroz Reta J. and Marcos Casquero, M.-A (eds), Etymologias: Edition Bilingüe, Madrid, 1983. を使用した。Berney, Lewis, Beach and Berghof, The etymologies of isidore of seville, Camblidge University Press, 2006の英訳を参照した。

本章から「語源」に対するイシドルスの理解を知ることができる。そのため本章は『語源』全体を理解するために重要な箇所である。

翻訳

語源とは動詞あるいは名詞の力が解釈によって得られた場合における名前の起源である。これをアリストテレスはσύμβολονと名付け、キケロはadnotatioと名付けた1。なぜなら範例が提示されることによって、事物の名前や用語が知られる(notus)からである。例えば「流れ」(flumen)は流れることによって把握されるので、「流れること」(fluendum)に由来してそのように呼ばれる。語源を知ることにはその名前の解釈において、必要不可欠な有用性が常にある。なぜならもしどこからその名前が生じたのかを理解したならば、その名前の力をすぐに理解することができるからである。つまり、語源を知っているときには、いかなるものに対しても洞察(inspectio)はより明確である2。古の人々によってすべての名前が自然に従って(secundum naturam)定められた訳ではなく、取り決めによって(secundum placitum)定められたものもある。これは我々が時には好みによって付けたい名前を自分の奴隷や所有物に付けるのと同じである。それゆえ、すべての名前の語源が得られるのではない。なぜなら一部の事物はそのものが生まれつき備えている質によって名前を得ているのではなく、人間の自由な判断によって名前を得ているからである。

名前の語源は原因(causa)によって与えられているか3、例えば'rex'(王)は<regendum(支配すること)と>recte agendum (正しく行うこと)に由来している。あるいは起源によって与えられている。例えば'homo'(人間)は'humo'(塵)に由来している4。あるいは反対によって与えられている。例えば'lutum'(泥)は'lavare'(洗うこと, 完了分詞: lautus)に由来しているが、泥はきれいではない。'lucus'(森)も反対のものに由来している。なぜなら日影によって暗くて、ほとんど明るく(lucere)ないからである。 そして語源のあるものは名前の派生形によって与えられている。例えば'prudens'(adj. 思慮のある)'は'prudentia'(nom. 思慮)に由来している。あるものは音声5によって与えられている。例えば'garrulus'(饒舌な)はgarrulitas(饒舌)に由来している。あるものはギリシア語の語源に由来しており、ラテン語で屈曲する。例えば'silva'(森)や'domus'(家)がそうである6。さらに他の名前は地名、都市名あるいは河名に由来した名前である。そして多くの名前は様々な民族の言葉で呼ばれている。それゆえ、それらの名前の起源はほとんど分からない。つまりラテン語話者とギリシア語話者には理解できないとても多くの異国の名前があるのである。


  1. キケロ『トピカ』35 .
    「多くの論拠が、語源(notatio)から引き出される。ところで、語源は、論拠が言葉の意味から引き出すときに、用いられる。ギリシア人は、これをエチュモロギア(etymologia)[語の本義]と呼んでおり、これをラテン語に逐語訳すれば、ウェイロクィウム(veriloquium)である。しかし、われわれは、あまり適切でない新語を避けて、この類をノタティオ(notatio)と呼ぶ。なぜなら語というのは、事物の記号だからである。それゆえ、アリストテレスも同様に、ラテン語で記号(nota)のことである、シュンボロン(symbolon)[しるし、象徴、記号]と呼んでいる。しかし、何が意味されているかわかっているなら、言葉を選ぶ必要はない。」(吉原達也訳)

  2. Barney et al. 注30, p.55
    “Fontaine 1981:100 notes that this sentence is adapted from a legal maxim cited by Tertullian De Fuge 1.2: "Indeed, one’s insight into anything is clearer when its author is known” - substituting etymologia cognita for auctore cognito“.

  3. 以下の語源の種類の列挙はトポスの列挙と類似している。

  4. cf. 『語源』X-1.
    イシドルス『語源』翻訳 X-1: 1-5『人間と怪異について』 - Asinus's blog

  5. 音声の類似のことか。イシドルスのこの例は派生形で説明できる。

  6. silvaに対応するギリシア語はὕλη、domusはギリシア語のδόμοςと同祖先(PIE *dōm)である。