Asinus's blog

西牟田祐樹のブログです。

イシドルス『語源』翻訳 VIII-6: 19-23『異教徒である哲学者について』

はじめに

テキストはOroz Reta J. and Marcos Casquero, M.-A (eds), Etymologias: Edition Bilingüe, Madrid, 1983. を使用した。Berney, Lewis, Beach and Berghof, The etymologies of isidore of seville, Camblidge University Press, 2006の英訳を参照した。

内容が理解しやすいよう適宜改行を行なった。

イシドルス『語源』翻訳 VIII-6: 1-10『異教徒である哲学者について』 - Asinus's blog イシドルス『語源』翻訳 VIII-6: 11-17『異教徒である哲学者について』 - Asinus's blog

この記事でこの章は終わりである。

脚注は不完全であり改訂予定である。

翻訳

[異教徒の]神学者(theologus)とは自然学者のことである。Theologusと呼ばれるのは彼らの文書(scriptus)で神(deus, θεός)について述べているからである。彼らの探求において神が何であるかということについてはさまざまな見解がある。ある人々は、四元素からなる、肉体の感覚によって見られ得るこの世界が神であると言った。例えばストア派ディオニュシオスがそうである。そして他には魂(mens)が神であると精神的に理解した人々がいる。例えばミレトスのタレスがそうである。ある人々は万物のうちに留まっている透明な霊魂(animus)が神であると言った。例えばピタゴラスがそうである。ある人々は神は時間的ではなく不変であると言った。例えばプラトンがそうである1。ある人々は自由な魂が神であると言った。例えばキケロがそうである。ある人々は霊(spiritus)と魂が神であると言った。例えばマローがそうである2。彼らはどのように神を見出したかではなく、ひとつの観点から自分が見出したような神についてだけ語っていた。なぜなら彼らは思索において空しくなったからである。自分自身のことを知者と呼ぶ者は愚か者となるのである3

プラトン主義者たちは神は監督者(curator)であり4、審判者(arbiter)であり、裁判官(judex)5であると主張した。エピクロス派は神は[我々に]無関心であり、活動していないと主張した。さらに世界についてプラトン主義者たちは非物質的であると断言した。ストア派は物質的であると断言した6エピクロス派は原子からなると断言した。ピュタゴラス派は数からなると断言した。ヘラクレイトス派は火からなると断言した。

そこからウァロも世界霊魂が火であると言っている。それゆえ、我々において魂がすべてを支配しているように、世界において火が万物を支配していると彼は言っている。何とくだらぬことを彼は言うのだろうか。「火が我々の内にあるときは我々は生きている。火が我々から出ていくときには、我々は死ぬ」。 それゆえ、火が世界から稲妻を伴って離れる時、世界は消滅する。

これらの[異教の]哲学者たちの誤謬を教会へと持ち込んだのは異端の者どもである。これらの誤謬からαἰῶνες(アイオーン)7と私が知らない形式(formae)[が導入された] 。さらにアリウスにおける名前だけの三位一体とヴァレンティノスにおけるプラトン学派の熱狂[も導入された]。さらにマルキオンの、三位一体においてより優越した神[が導入された]。なぜならこれはストア派に由来しているからである。魂は消滅すると[異端者によって]言われる時、エピクロスが見出される。そして肉体の復活が否定される時、すべての哲学者たちの中の空しい教えから取られているのである。神が物体と等しくされる時には、ゼノンの教えが介在している。そして火の神についての何かが書かれている時には、ヘラクレイトスが介在している。異端者と哲学者の間で同じ主題が鳴り響いている時、繰り返された同じ思想が関係しているのである。


  1. cf. プラトンティマイオス』34A.

  2. ウェルギリウス(Publius Vergilius Maro)のこと。

  3. 『ローマ人への手紙』1:21-23.
    「彼らは神を知りながらも、[その神に]神としての栄光を帰すことも感謝することもせず、むしろ彼らの思考は虚しいものとされ、彼らの理解なき心は暗黒にさせられたからである。彼らは自ら知者であると断言しながら、愚かにされ、不朽なる神の栄光を朽ちゆく人間や鳥や[四本足の]獣や血を這う生き物の像に似通ったものに変えたのである。」(新約聖書翻訳委員会訳)

  4. cf. プラトンパイドン』62D.

  5. cf. プラトンゴルギアス』524A, 『パイドン』113D-E, 『国家』614C-615D.

  6. cf. キケロ『アカデミカ後書』XI.
    「しかしゼノンは、何らかの作用を及ぼすものも受けるものも物体以外ではありえないと考えた。」(中川純男訳)
    https://phil.flet.keio.ac.jp/person/nakagawa/acpost_i.html

  7. このαἰώνについてはヴァレンティヌスが導入した思想として、VIII-5:11『キリスト教の異端について』で説明されている。そこではヴァレンティヌスはプラトンの信奉者だと説明されている。