Asinus's blog

西牟田祐樹のブログです。

イシドルス『語源』翻訳 VI. 2. 1-7『聖書の著者と名称について』

はじめに

テキストはOroz Reta J. and Marcos Casquero, M.-A (eds), Etymologias: Edition Bilingüe, Madrid, 1983. を使用した。Berney, Lewis, Beach and Berghof, The etymologies of isidore of seville, Camblidge University Press, 2006の英訳を参照した。Oroz Reta J. and Marcos Casqueroの西訳とIsidoro di Siviglia, Etimologie o origini, primo volume, a cura di Angelo Calastro Canale, UTET, 2004.の伊訳も参照した。

聖書の分類についてはVI-1を参照。

イシドルス『語源』翻訳 VI-1 『旧約聖書と新約聖書について』 - Asinus's blog

内容が理解しやすいよう適宜改行を行なった。

翻訳

旧約聖書の著者はヘブライ人の伝統では次のように言い伝えられている。最初にモーゼが神に関わる歴史についての世界誌(cosmographia)を五巻の本に書き表した。これはPentateuchus(πεντάτευχος, モーセ五書)と呼ばれている。Pentateuchusは五巻本(quinque volumina)に由来してそのように呼ばれる。なぜならquinque(5)はギリシア語ではπέντε、volumen(書物)はτεῦχοςと呼ばれるからである。

創世記(Genesis)は世界の始まり(exordium mundi)と諸種族の生まれ(generatio saeculi)1を含んでいることからそのように呼ばれる。

出エジプト記(Exodus)はエジプトからの脱出(exitum)、あるいはイスラエルの民族の脱出を物語っている。それゆえにExodusという名前なのである。

レビ記(Leviticus)はレビ人(levita)の務めと犠牲の様々な違いを順に説明していることからそのように呼ばれる。そしてこの書にはレビ人のすべての規律が書き留められている。

民数記(Numerorum liber)はエジプトからの諸部族の脱出が数えられており(dinumerare)、荒野に42日の間留まったことへの記述が含まれていること2からそのように呼ばれる。

申命記(Deuteronomium)3ギリシア語に由来してそのように呼ばれる。これはラテン語ではsecunda lex (第二律法)と翻訳される。第二律法とはつまり[出エジプト記での律法の]繰り返しであり、かつ福音という律法の予型(praefiguratio)なのである。福音という律法はより前の律法[すべて]を含んでいるが、その[福音の]中で繰り返されたすべての内容が新しくあるようになのである。


  1. Barney et al.: the beginning of the world and the begetting of living creatures, Reta&Casquero: el comienzo del mundo y la genesis de la humanidad, Canale: la narrazione del principio dell'universo e della generazione del mondo.
    saeculumは中世ラテン語ではworldの意味もある。saeculusはここでは、世界、人間(の種族)、生き物(の種族)のいずれの意味であるかが解釈が分かれる。創世記には人間の種族についての系譜があることから、人間の種族と解した。

  2. 民数33:1-49.

  3. δεύτερος (第二) + νόμος (法、律法). cf. 申命17:18 (旧約聖書翻訳委員会訳注20, p.699). ヘブライ語聖書での「律法の写し」を七十人訳が「第二の律法」と訳したことで、ヴルガタ訳にも受け継がれ、近代語訳聖書でもこの書名が定着した。
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