Asinus's blog

西牟田祐樹のブログです。

イシドルス『語源』翻訳 VI. 2. 34-43『聖書の著者と名称について』

はじめに

テキストはOroz Reta J. and Marcos Casquero, M.-A (eds), Etymologias: Edition Bilingüe, Madrid, 1983. を使用した。Berney, Lewis, Beach and Berghof, The etymologies of isidore of seville, Camblidge University Press, 2006の英訳を参照した。Oroz Reta J. and Marcos Casqueroの西訳とIsidoro di Siviglia, Etimologie o origini, primo volume, a cura di Angelo Calastro Canale, UTET, 2004.の伊訳も参照した。

今回は福音書の箇所を訳出する。 前節はこちら。

イシドルス『語源』翻訳 VI-2: 1-7『聖書の著者と名称について』 - Asinus's blog

イシドルス『語源』翻訳 VI-2: 8-17『聖書の著者と名称について』 - Asinus's blog

詩篇の番号は七十人訳のではなく、ヘブライ語聖書のものを用いる。聖書の引用部分については旧約聖書翻訳委員会訳と新約聖書翻訳委員会訳を参考にした。

内容が理解しやすいよう適宜改行を行なった。

訳註は不完全であり改訂予定である。

翻訳

四人の福音書記者たちがそれぞれ別々に四巻の福音書を書き記した。

第一にマタイがユダヤの国において、ヘブライ人の文字と言葉で福音書を書き記した。次のように人としてのキリストの誕生から福音を説き始めている、「アブラハムの子、ダビデの子、イエスキリストの誕生の記録」1。これは聖霊によって預言者たちに約束されていたように、キリストが肉体的には[イスラエルの]族長たちの血統に連なることを表している。

第二に聖霊に満ちたマルコがイタリアで流暢なギリシア語によってキリストの福音を書き記した。マルコは宣教のためにペトロに同行した2。預言の霊[の力]により、彼は次のようにこの書を始めている、「荒野で呼ばわる者の声、主の道を整えよ」3。これはキリストが受肉した後に、彼が世において福音を説く(praedicare Evangelium)ことを表している。なぜならキリスト自身も、次のように書かれているように、預言者と呼ばれているからである、「諸国民のための預言者に、あなたを定めていたのである」4

第三はルカであり、彼は全ての福音書記者の中で一番教養がある。実際彼はギリシアで医者であった5。彼は高官テオフィロスのために福音書を書き記した。それは祭司的な精神から次のように始まっている「ユダヤの王ヘロデの時代に、祭司ゼカリアがいた」6。これはキリストの肉における誕生と福音の宣教の後に、[キリストが]世の救済のために犠牲となることを表している。キリストは祭司であり、そのことは詩篇で次のように言われている、「あなたはとこしえにメルキゼデクの系統の祭司」7。なぜならキリストが到来した時に、ユダヤ人たちの祭司は沈黙し、律法と預言は失効したからである。

第四はヨハネがアシアで最後の福音書を書き記した。[彼の福音書は]「ことば」で始まっている。これは次のことを表している。我々のために[肉において]生まれ、受難してくださった救い主[キリスト]が、[すべての]世々の以前には神の言葉であり8、天から到来し、[十字架での]死の後に天へと再び帰って行くことである。

これらが四人の福音書記者である。聖霊がエゼキエルに四体の生き物として彼らを表した9。これらの生き物が四つであるのは、世界の四つの部分に渡ってキリスト教の信仰が彼ら[福音者書記]の宣教によって広められたからである。生き物(animalia)と言われるのはキリストの福音は人間の魂(anima)のために宣教されるからである。また、[生き物の下の外輪には]内と外に眼が満ちていた。これは預言によって言われ、前もって約束されていた福音を福音書記者たちが予見しているからである。また、生き物の脚は真っ直ぐであった。これは福音書書記たちにはいかなる曲がったところもないからである。そして[それぞれの生き物にある]6つずつ10の翼は彼らの脚と顔を覆っていた。それはキリストの到来の際に覆われていたものが明らかにされるからである。

Evangelium(福音, εὐαγγέλια)はbona adnuntiatio(善い知らせ)と翻訳される。なぜならギリシア語ではbonumはεὖ, adnuntiatioはἀγγελίαというからである。それゆえangelus(ἄγγελος, 使者)もnuntius(使者)と翻訳される。


  1. マタイ1:1.

  2. cf. 使徒行伝12:12.

  3. マルコ1:3. 1:1から始まっていないことから、文字通りの冒頭部分のことを言っているのではない。

  4. エレミア1:5.

  5. cf. コロサイ4:24. コロサイで言及されるルカはパウロに同行したルカを指しているのかどうかは不明。

  6. ルカ1:5.

  7. 詩篇110:4, ヘブ7:17.

  8. ヨハネ1:1.

  9. エゼキエル1:10. 人間、獅子、雄牛、鷲のこと。以下に言及されている箇所は次の通り。眼については1:18。脚については1:7。翼については1:11.

  10. ヘブライ語聖書、七十人訳、ヴルガタ訳では「4つずつ」。