はじめに
テキストはOroz Reta J. and Marcos Casquero, M.-A (eds), Etymologias: Edition Bilingüe, Madrid, 1983. を使用した。Berney, Lewis, Beach and Berghof, The etymologies of isidore of seville, Camblidge University Press, 2006の英訳を参照した。Oroz Reta J. and Marcos Casqueroの西訳とIsidoro di Siviglia, Etimologie o origini, primo volume, a cura di Angelo Calastro Canale, UTET, 2004.の伊訳も参照した。
日本語訳には以下のものがある。
内容が理解しやすいよう適宜改行を行なった。
翻訳
24. 『天文学という名称について』
天文学とは星に関する法則[についての学科]である1。この学科は理性による探究によって、それ自体に関してと大地との関連での、天体の運行と星の形状と位置を概観するのである。
25. 『天文学の創始者について』
最初にエジプト人が天文学を創始した。一方でカルデア人が初めて天文学や、誕生時の天球の配置に関する観察について教えた。歴史家であるヨセフスはアブラハムがエジプト人に天文学を教えたのだと言っている2。ギリシア人はアトラス3が初めて考案したのだと言っている。そのことから[アトラスが]天球を支えていたと言われているのである。創始者が誰であったとしても、その者は、季節の交代、一定で限定された星の運行、[天体]相互の定まった距離[についての観察]を通じて、天における運動と魂における理性に駆り立てられ、何らかの測定と数について考察したのである。定義し、区分することでそれらを秩序づけた者が天文学を考案したのである。
26. 『天文学の創設者について』
[ギリシア語とラテン語の]両方の言語で、天文学についての様々な書物が書かれている。その中でもとりわけ、ギリシア人はアレクサンドレイアのプトレマイオス王が卓越していると考えている4。彼は王名表をも制定した。この王名表によって天体の運行を知ることができる。
27. 『天文学と占星術の相違について』
天文学(Astronomia)と占星術(Astrologia)の間には相違が存在する。天文学には、天の回転、上昇、下降と天体の運動についてが含まれている。それゆえastronomiaと呼ばれているのである5。
占星術の一部は自然に関するものであり、一部は迷信的なものである。[占星術が]自然に関するものであるのは太陽や月の運行や、周期的な星の配置について論じる限りである。迷信的であるのは星によって予言しようとする占星術師が[その術に]従うときである。さらに、各々の魂あるいは身体の部分に対して十二宮を割り当て、星の運行によって、人間の誕生や気質を予言しようとする時もそうである。
- イシドルス『語源』翻訳 I. 1,2『学芸と技術について』『自由七科について』 - Asinus's blog↩
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ヨセフス『ユダヤ古代史』(秦剛平訳、括弧は記事作者がつけた)
「[アブラハムは]彼ら(エジプト人)に算術をすすんで教え、また天文学を伝えた。エジプト人は、アブラハムが来るまではこれらの学問を知らなかったのである。こうしてこれらの学問はカルデヤ人のもとからエジプトへ入り、そこからギリシア人に伝わったのである。」↩ - ギリシア神話でティタン神族の一人。ティタノマキアでオリュンポス神族に敗れ、ゼウスから罰として極西の地で天空を支える役目を科せられた。cf. アウグスティヌス『神の国』18.8↩
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Berney et al. 注25 (p.99)
"Isidore is confusing Claudius Ptolemy (second century CE) with the Ptolemys who ruled Egypt."↩ - ἀστρονομία: ἄστρον(星) + νόμος (法則).↩