Asinus's blog

西牟田祐樹のブログです。

イシドルス『語源』翻訳 I-44『歴史の種類について』

はじめに

テキストはOroz Reta J. and Marcos Casquero, M.-A (eds), Etymologias: Edition Bilingüe, Madrid, 1983. を使用した。Berney, Lewis, Beach and Berghof, The etymologies of isidore of seville, Camblidge University Press, 2006の英訳を参照した。

翻訳

Historiae(歴史、歴史記述)には三つの種類がある1。第一に、一日の出来事はephemeris(ἐφημερίς, 日記)と呼ばれる。我々はこれをdiarium(diary, 日記)と呼んでいる。なぜならラテン人がdiurnus(一日の)と言うのを、ギリシア人はephemerisと言うからである。一月ごとに分けられた歴史はKalendarium(calendar)と呼ばれる。一年ごとの出来事はannalis(annals, 年代記)と呼ばれる。家のことでも軍隊のことでも、記憶に値することは海でも陸でも毎年(per annos)覚書(commentarius)に記録される。annalisはanniversarius(毎年の)[出来事]に由来してそう名付けられた。歴史(historia)は多数の年や季節に関わっている。毎年の覚書にある歴史の詳細な記述は本の形で報告される。歴史と年代記の間には次のような関係がある。歴史は我々が目撃した時代に関わる。一方、年代記は我々の生涯では知ることができない年に関わる。それゆえサルスティウス2は歴史に関わり、リウィウスとエウセビオスとヒエロニュモスは年代記と歴史の両方に関わっている。同様に歴史とありそうな話(argumentum)3と寓話の間には次のような関係がある4。歴史は起こった本当の出来事である。ありそうな話はたとえ起こっていなくても、起こりそうな出来事である。寓話は起こっても起こりそうでもない出来事である。なぜなら寓話は自然に反しているからである。


  1. ここでhistoriaあるいは複数形historiaeは歴史一般ではなく、歴史記述(資料)の意味合いが強い場合が多い。ただし訳し分けるのはかえって煩雑になるのですべて「歴史」と訳すことにする。
  2. Gaius Sallustius Crispus. 『ユグルタ戦争』と『カティリーナの陰謀』が現存する。カティリーナ陰謀事件はサルスティウスの20代の出来事である。アウグスティヌスは「史実に忠実なことで有名なサルスティウス」と評している(『神の国』1.5)。
  3. Barney et al. 注47 (p. 67)
    "On the term argumentum as "possible fiction" see. E. R. Curtius, European Literature and the Latin Middle Ages, trans. Trask (NY, 1953), 452-55."
  4. 歴史も寓話もどちらも「物語」あるいは「話」であるという点は共通しているので比較され得る。