Asinus's blog

西牟田祐樹のブログです。

イシドルス『語源』翻訳 I-41, 42,43『歴史について』『最初の歴史家について』『歴史の有用性について』

はじめに

テキストはOroz Reta J. and Marcos Casquero, M.-A (eds), Etymologias: Edition Bilingüe, Madrid, 1983. を使用した。Berney, Lewis, Beach and Berghof, The etymologies of isidore of seville, Camblidge University Press, 2006の英訳と以下の文献中の英訳を参照した。

Brehaut Ernest, An encyclopedist of the Dark Ages: Isidore of Serville, Columbia University, 1912.

この文献は以下のサイトで読むことができる。

https://archive.org/details/encyclopedistofd00brehrich/page/n9/mode/2up

翻訳

歴史について

歴史とは起こったことについての語りである。

(Historia est narratio rei gestae.)

歴史によって過去の出来事が識別される。Historia (歴史)はギリシア語のἱστορεῖν (historein, 物語ること)に由来してそのように呼ばれる。つまり見ること、あるいは知ることに由来してそのように呼ばれる。昔の人々においてはそこに居合わせており、記録される出来事を目撃していた人でなければ誰も歴史を記録しなかった。なぜなら我々は伝聞を集めて知った出来事よりも、[直接]目で見た出来事の方がよりよく把握できるからである。それは目撃された物事は誤ることなしに述べ伝えられるからである。

この学問[歴史]は文法学との関わりがある。なぜなら記憶(memoria)するに値することはなんであれ文字によって記録されるからである。それゆえhistoriae(記録、記述)はmonumenta(記録、思い出させるもの)とも呼ばれる。なぜなら歴史は出来事についての記憶を与えてくれるからである。series(ひと続き)は交互に編み合わされた花冠(serta)との比喩によってそのように呼ばれる1

『最初の歴史家について』

我々の元では最初にモーゼが世界の始まりについての歴史を記録した 2。一方、異教徒の間では最初にプリュギアのダレスがギリシアトロイアの歴史を公表した。その歴史は棕櫚の葉に書き記されたと言い伝えられている。ダレスの後に初めて歴史を記録したのはヘロドトスである。ヘロドトスの後にはペレキュデスがエズラが律法を書き記した時代3に有名になった。

歴史の有用性について

そこに書かれている有用なことを読み取ることができる読者にとっては異教徒の歴史は有害ではない。なぜなら多くの賢い者は歴史[の知識]によって人間の過去の出来事を現在の教えに取り入れることができるからである。さらに、歴史によって遡って季節と年の全体4を計算で把握でき、執政官や王の連続によって5多くの重要な事柄を詳細に調べることができるから有用なのである。


  1. 出来事のひと続き(連続)、それに付随する記録の連続に関連して語源が述べられている。
  2. 『創世記』のこと。モーゼ自身が著者であると考えられていた。cf. 『ヨハネ福音書』5:47, 『ヨベル書』1:5.
  3. 紀元前450年頃のこと。
  4. 経過した時間の全体。
  5. ローマでの紀年法は2名の執政官の名前によるものであった。