Asinus's blog

西牟田祐樹のブログです。

イシドルス『語源』翻訳 VIII-5: 37-50『キリスト教の異端について』

はじめに

テキストはOroz Reta J. and Marcos Casquero, M.-A (eds), Etymologias: Edition Bilingüe, Madrid, 1983. を使用した。Berney, Lewis, Beach and Berghof, The etymologies of isidore of seville, Camblidge University Press, 2006の英訳を参照した。

内容が理解しやすいよう適宜改行を行なった。

脚注は不完全であり改訂予定である。

イシドルス『語源』翻訳 VIII-5: 1-10『キリスト教の異端について』 - Asinus's blog

イシドルス『語源』翻訳 VIII-5: 11-25『キリスト教の異端について』 - Asinus's blog

イシドルス『語源』翻訳 VIII-5: 26-36『キリスト教の異端について』 - Asinus's blog

翻訳

フォティヌス派(Photinianus)はガッログラエキア生まれでシルミウムの司教であるフォティヌスに由来してそのように呼ばれる1。彼はエビオン派の異端の教えを蘇らせ、キリストは、夫であるヨセフとの性交によってマリアが孕んだのだと主張した。

アエリオス派(Aerianus)はアエリオスという人に由来してそのように呼ばれる。彼らは死者に供儀を供えることを拒否している。

アエティオス派(Aetianus)はアエティオスに由来してそのように呼ばれる。この一派はアエティオスの弟子であり、弁証論者であるエウノミオスに由来してエウノミオス派とも呼ばれる。エウノミオスの名によってこの一派はより有名になった。彼らは父と子は異なっており、かつ子と聖霊は異なっていると主張している。さらに、信を保つ者はいかなる罪も負わないと彼らは言っている。

オリゲネス派(Origenianus)はオリゲネスが創始した。彼らは子が父を見ることも、聖霊が子を見ることも不可能であると言っている。さらに彼らは次のように言っている。魂は世界の始まりにおいて罪を犯した。それらの魂は天から地まで下り、様々な罪に応じた様々な肉体をあたかも鎖のように身に纏った。このようにして世界が作られたのである。

ノエトス派(Noetianus)はノエトスに由来してそのように呼ばれる。彼はキリストと父と聖霊は同一であると言っていた。しかし、彼らはペルソナに関してではなく、名前の働きに関してこの三位一体を受け入れていた。そのことから彼らは天父受苦派(Patripassianus)2とも呼ばれる。なぜなら、彼は父が苦しみを受けたと言っているからである(quia Patrem passum dicunt)。

サベリウス主義(Sabellianus)3は上で述べたノエトスから生まれたと言われている。彼らはサベリウスはノエトスの弟子であると主張しているからである。サベリウスの名によって彼ら[サベリウス主義者]はとても有名になった。それゆえ[ノエトス派ではなく]サベリウス主義とも言われるのである。彼らは父と子と聖霊が一つのペルソナであると説いている。

アリウス派アレクサンドリアの司祭であるアリウスが創始した。彼は子が父と永遠に共にいることを認めず、三位一体において異なる実体が存在することを主張した。このような説とは反対に主はこう言っている「私と父はひとつである」4

マケドニオス派(Macedonianus)はコンスタンティノポリスの司教であるマケドニオスに由来してそのように呼ばれる。彼らは聖霊が神であることを否定している。

アポリナリオス派(Apollinarista)はアポリナリオスに由来してそのように呼ばれる。キリストは魂なしの肉体のみを受け取ったのだと言っている。

マリア異議派(Antidicomarita)5は彼らがマリアの処女性に異議を唱えている(contradicere)ことからそのように呼ばれる。キリストが生まれた後、彼女は夫と性交したと彼らは主張している。

メタギスモス派(Metagismonita)6はvas(容器)がギリシア語ではἄγγοςと言われることからその名を得ている。なぜなら彼らはあたかもより大きな容器の中により小さな容器があるように、父のうちに子があると主張しているからである。

パトリキオス派(Patricianus)はパトリキオスという人に由来してそのように呼ばれる。人間の肉の実体は悪魔によって作られたと彼らは言っている。

コリュトス派(Coluthianus)はコリュトスという人に由来してそのように呼ばれる。彼らは神は悪は創造していないと言っている。このような説に反して聖書には次のように書かれている、「私は神、悪を創造する者」7

フロリヌス派(Florianus)はフロリヌスに由来してそのように呼ばれる。彼らは[コリュトス派とは]反対に、神は悪しく[世界を]創造したと言っている。このような説に反して聖書には次のように書かれている、「神は全てをよしとした」8


  1. ガッログラエキアはガラテアのこと。シルミアはローマ帝国の属州パンノニアにあった都市。

  2. Patri (pater, 父) + pass (passus, 受けたこと) + ianus (派).

  3. cf. エウセビオス『教会史』7:6.

  4. ヨハネ福音書』10:30.

  5. antidico (ἀντιδικέω) + marita.

  6. Gr. μεταγγισμός: transmigration.

  7. イザヤ書』45:7.
    45:6-7 「わたしがヤハウェである。他にはいない。[わたしは]光を造り、闇を創造する者、平安を作り、災いを創造する者。わたしはヤハウェ、これら総てを作る者。」(以下 旧約聖書翻訳委員会訳)
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  8. 『創世記』1:31.
    「神が自ら造ったすべてのものを見ると、果たして、それはきわめてよかった。夕となり、朝となった。第六日である。」