Asinus's blog

西牟田祐樹のブログです。

S4を含む様相論理は非可算無限個ある: Fine, "An ascending chain of S4 logics"(1974)を読む

様相論理を学ぶと体系が沢山現れることが気になると思う。

 \mathsf{K}, \mathsf{S4}, \mathsf{S5}, \mathsf{K4.3}, \mathsf{S4.3}, \cdots

それじゃあ一体いくらあるんだ?

という疑問に対してこう答えられる。

S4を含む様相論理だけで非可算無限個ある。

つまりアホほど存在するのである。

Kit Fine, "An ascending chain of S4 logics", Theoria, vol. 40, issue 2, pp.110-116にある証明をある程度ラフに説明する。

証明にはJankov-fine論理式というもの(原論文ではframe-formula)とbounded morphismというものを使う。以下記号は読みやすさを考慮し、適宜原論文とは異なるものを用いている。

フレーム \mathcal{F} \{v\in W : wRv\}に制限したものを \mathcal{F}^{w}と書く。

bounded morphismの定義

Given two frames  F=(W, R) and  F'=(W', R'), a bounded morphism  f: W\to W' between  F and  F' is a map such that

 f is a surjective,

 wRv implies  f(w)R'f(v),

 f(w)R'v' implies that there is a  v\in W such that  wRv and [f(v)=v'].

bounded morphismとはフレーム版の双模倣性のようなものである。

Jankov-Fine論理式\phi_{\mathcal{F}}は次のようにして作る。フレーム \mathcal{F}が与えられた時、 \mathcal{F}の状態を w_0,\cdots, w_nと列挙する(nは自然数)。各状態 w_iに対して命題変数 p_iを対応させる。始点を w_0とする。 以下の論理式の連言を\phi_{\mathcal{F}}とする。

(i)  p_{0}

(ii)  \square(p_0\lor\dots\lor p_n)

(iii)  (p_i\to\lnot p_j)\land\square(p_i\to\lnot p_j) for each  i, j with  i\neq j\le n

(iv)  (p_i\to\lnot p_j)\land\square(p_i\to\diamond p_j) for each  i, j with  w_i R w_j

(v)  (p_i\to\lnot\diamond p_j)\land\square(p_i\to\lnot \diamond p_j) for each  i, j with  \lnot(w_i R w_j)

これは証明で用いられる次の梯子型のフレームを見ると理解しやすい。

f:id:Incognito0:20200720160025p:plain
Fine(1974)p.113の図を使用

ここで0が始点である。(i)から(iii)により各点には同じ自然数の論理式が一対一で対応しており、(iv), (v)はフレームの到達性関係を論理式の形で記述している。

Jankov-Fine論理式は以下の補題が成り立つようにできている。

補題 フレーム \mathcal{G}がJankov-Fine論理式\phi_{\mathcal{F}}を充足する iff ある w_0\in Vに対してbounded morphism  f:\mathcal{G}^{w_0}\to \mathcal{F}が存在する。

S4に特定の論理式を足していくことでS4を含む論理がどんどん増えていく。しかしこのようにして作られていく論理の列がどこかで証明能力に関して飽和し、同じものになってしまうかもしれない。このようなことが起きないような追加する論理式を選ばないといけないし、証明で確かめることが必要である。そのために都合の良くうまく選んだ論理式がJankov-Fine論理式(の否定)なのである。

 M\subseteq \omegaに対して  LM=S4 + \{\lnot\phi_{\mathcal{F}_{m}}: m\in M\}とする. ここで \mathcal{F}_{n}=\{ 5+2n, R| 5+2n \}. 1

定理 異なる  M, N\subseteq \omegaに対し,  LM\neq LN.

梯子型のフレームを用いる理由は特定の添字ではbounded morphismが存在しないこと(p.112 lemma 1)が示せるからである。これと先ほどの補題を合わせて主定理が示される。

 \omegaの部分集合ごとにS4の拡張が作れるので非可算無限個作ることができる。

参考文献

Kit Fine, "An ascending chain of S4 logics", Theoria, vol. 40, issue 2, pp.110-116

Blackburn, de Rijke and Venema, Modal Logic, Cambridge University Press, 2001

Rosalie Iemhoff, http://www.jakubszymanik.com/ML/noteslogai.pdf


  1. Rの条件については原論文を参照せよ。