Asinus's blog

西牟田祐樹のブログです。

イシドルス『語源』翻訳 XII-2: 25-26『鳥について』(カワセミとペリカン)

はじめに

テキストはOroz Reta J. and Marcos Casquero, M.-A (eds), Etymologias: Edition Bilingüe, Madrid, 1983. を使用した。Berney, Lewis, Beach and Berghof, The etymologies of isidore of seville, Camblidge University Press, 2006の英訳を参照した。

カワセミについては以下の記事にもある。

偽プラトン『カワセミ』翻訳 - Asinus's blog

ペリカンについてはプリニウスの『博物誌』にも記載があるが、内容はイシドルスのものと大きく異なる。

Pliny the Elder, The Natural History, BOOK X. THE NATURAL HISTORY OF BIRDS., CHAP. 66.—THE PELICAN.

ペリカンはキリストの自己犠牲の象徴としてもみなされてきた。

The Symbolism of the Pelican

The Pelican Symbol in Christian Iconography

キリストの十字架の上に鳥の巣。 | 名画を読み解く

聖堂案内シリーズ6

このモチーフはシェイクスピアにも受け継がれ、『ハムレット』4.5ではレアティーズの次の台詞がある(松岡訳)。

「父の味方なら、こうして腕を拡げて抱き締め己の命をしぼって雛を育てるペリカンのように我と我が血で養ってやります。」

翻訳

カワセミ(Alcyon)は海鳥(pelagi volucris)であり、その名があたかもales oceaneaであるかのように名付けられている1。なぜならカワセミは冬に大洋(オケアノス)の海上で巣を作り、雛鳥を育てるからである。カワセミが広大な海原で卵を孵す時には、穏やかな風と共に七日間の好天が続き海原が凪ぎ、そして自然(rerum natura)自体が子育ての助けを与えるのであると言い伝えられている2

ペリカン(Pelicanus)はナイル川の荒地に住んでいるエジプトの鳥であり、そこからその名が付いている。なぜならエジプトはCanopus(カノープス)3と呼ばれるからである。 もし本当であればだが(si verum sit)4、次のように言われている。ペリカンは自分の子供たちを殺し、そのことを三日間嘆き悲しみ、そして自分自身を傷つけ、自分の血を子供たちに振りかけ蘇らせるそうである5


  1. OEDによればἅλς(bird) + κύων(conceiving).
    https://www.oed.com/oed2/00101589
  2. cf. アリストテレス『動物誌』542b, オウィディウス『変身物語』11. 745.
  3. Canopus, Egypt - Wikipedia
  4. 以下の伝聞の信憑性が疑われている。
  5. おそらく羽繕いを観察してこのように解釈しているのではないかと思う。cf. 『フィシオログス』4.
    ペリカンは、雛にはまったく目がない。ところが、子が生まれて、ほんの少し大きくなると、すぐに子は親鳥の顔をつつく。親鳥も、お返しとばかり、子を突きくだいて殺してしまう。しかし三日のあいだ、親鳥は自分が殺した子を思って悲しむ。三日のち、母鳥が行って、自分のわき腹を裂き、子の死体に血を滴らせると、子は生き返る。」(梶田昭 訳)