Asinus's blog

西牟田祐樹のブログです。

イシドルス『語源』翻訳 VIII-6: 1-10『異教徒である哲学者について』

はじめに

テキストはOroz Reta J. and Marcos Casquero, M.-A (eds), Etymologias: Edition Bilingüe, Madrid, 1983. を使用した。Berney, Lewis, Beach and Berghof, The etymologies of isidore of seville, Camblidge University Press, 2006の英訳を参照した。

内容が理解しやすいよう適宜改行を行なった。

本章では哲学者に関してだけでなく哲学に対する説明もなされ、II-24と内容上重複がある。

イシドルス『語源』翻訳 II-24 哲学の定義について - Asinus's blog

翻訳

philosophi(哲学者)1ギリシア語であり、ラテン語ではamatores sapientiae (知恵を愛する者)と翻訳される。

哲学者とは神的な事柄と人間的な事柄に関する知識があり、すべてのよく生きるための小道に通じている者のことである。

(Est enim philosophus qui divinarum et humanarum < rerum > scientiam habet, et omnem bene vivendi tramitem tenet.)

哲学者(philosophus)という名称はピュタゴラスが初めて用いたと言い伝えられている2。一方、昔のギリシア人はかつて自分たちのことを自慢げにsophistes(σοφιστής, 知者)あるいはdoctor sapientiae (知恵の教師)と呼んでいた。ピュタゴラスは自分のことを何と名乗っているのかと尋ねられた。彼は慎みのある言葉で「知恵を愛する者(philosophus)だ」、つまりamatores sapientiae、と答えた。なぜなら彼には知者と自称するのは非常に傲慢であるように思われたからである。それから後の人々は、知恵を目指すことについての各人の教えが、どれほど自分自身あるいは他人にとって優れているように思われようとも、哲学者(philosophus)以外の名前で呼ばれることを好まなくなった。

哲学は三つの種に分割される。それは自然学(Physicus)と倫理学(Ethicus)と論理学(Logicus)である3。自然学(Physicus)は自然について探究することからそのように呼ばれる。なぜなら自然(natura)はギリシア語ではφύσις(physis)と呼ばれるからである。倫理学(Ethicus)は倫理について議論をするのでそのように呼ばれる。なぜなら倫理(mores)をギリシア人はἤθη(ēthē)4と呼んでいるからである。論理学(Logicus)は自然についての言論と倫理についての言論を結びつけることからそのように呼ばれる。なぜなら言論(ratio)はギリシア語ではλόγος(logos)と呼ばれるからである。

これら三つの分野は哲学者の学派によってもさらに分割される。これらの学派の内には創始者の名前が付いているものがある。それはプラトン学派、エピクロス派、ピュタゴラス派がそうである。その他の学派の名前は彼らの集会所や休息所の名前に由来している。例えばペリパトス派やストア派アカデメイア派がそうである。

プラトン学派は哲学者プラトンに由来してそのように呼ばれる。この学派は神が魂の創造者であり、天使が肉体の創造者であると主張している。さらに幾年もの輪廻転生によって様々な肉体に魂が還っていくとも主張している5

ストア派は場所に由来してそのように呼ばれる。なぜなら柱廊(porticus, στοά)がアテナイにあって、彼らはποικίλη στοά (彩色柱廊)と呼んでいたからである。彩色柱廊には賢人たちの偉業や勇敢な男たちの歴史が描かれている。この柱廊で知者たちが哲学を行なった。そこから彼らはストア派と呼ばれるようになった。なぜならギリシア語ではporticus(柱廊)はστοά (stoa)と呼ばれるからである。ゼノンがこの学派を創始した。彼ら6は徳なしに人が幸福となることを否定した。さらに、すべての罪は結合した仕方であると主張し、次のように言った。「籾殻を盗んだ者は金を盗んだ者と同じく罪人である。海鳥を殺した者は馬を殺した者と同じく罪人である。それは動物であるから犯罪であるのではなく、その意志が犯罪とするのである。」さらに彼らは次のように言った。「魂は肉体と共に消滅する。魂もまた・・・7」 彼らは節制の徳があることを否定した。彼らは永遠なる栄光(gloria aeterna)を熱望しているが、そのことと共に永遠なるものが存在しないことを認めている。


  1. 単数形はphilosophus. Gr. φιλόσοφοςはφίλος + σοφος (愛する人 + 知).

  2. アウグスティヌス神の国』8:2.
    「イタリア学派の創始者はサモスのピュタゴラスである。哲学という名称そのものもまたピュタゴラスに起源を持っている。というのは、ピュタゴラスの時代以前、賞賛に価する生活態度ゆえに他の者たちにぬきんでていたとみなされていた人々は知者と呼ばれていたけれども、彼が「貴殿は何を専門としているのか」と尋ねられたとき、「自分は哲学者である」と答えたのである。つまり、「知恵を探究する者」であり、「知恵を愛する者」であると答えた。その理由は、知者だと自称することはたいへん高慢に思えたからである。」(アウグスティヌス著作集訳)

  3. II-24ではphysica etc.で女性形だがここでは男性形となっている。アウグスティヌス神の国』では女性形が用いられている。

  4. 複数中性形。男性単数形はἦθος.

  5. cf. 『国家』10巻「エルの神話」、『パイドロス』113A.

  6. 以下の思想内容の主語は複数形。

  7. Barney et al. 注6, p.179.
    “The faulty text here may be emended: ”… perishes with the body. They also love the virtue of temperance. They aspire to …“ The emendation would obviously accord with Stoicism.”