Asinus's blog

西牟田祐樹のブログです。

イシドルス『語源』翻訳 IX. 6. 1-6『島について』(イギリス、アイルランド)

はじめに

テキストはOroz Reta J. and Marcos Casquero, M.-A (eds), Etymologias: Edition Bilingüe, Madrid, 1983. を使用した。Berney, Lewis, Beach and Berghof, The etymologies of isidore of seville, Camblidge University Press, 2006の英訳を参照した。Oroz Reta J. and Marcos Casqueroの西訳とIsidoro di Siviglia, Etimologie o origini, primo volume, a cura di Angelo Calastro Canale, UTET, 2004.の伊訳も参照した。

プリニウス『博物誌』にもこの箇所の島についての記述がある。

Pliny the Elder, The Natural History, BOOK IV. AN ACCOUNT OF COUNTRIES, NATIONS, SEAS, TOWNS, HAVENS, MOUNTAINS, RIVERS, DISTANCES, AND PEOPLES WHO NOW EXIST OR FORMERLY EXISTED., CHAP. 30. (16.)—BRITANNIA.

Pliny the Elder, The Natural History, BOOK II. AN ACCOUNT OF THE WORLD AND THE ELEMENTS., CHAP. 77. (75.)—WHERE THE DAYS ARE THE LONGEST AND WHERE THE SHORTEST.

島などの現代名は括弧で表記した。

内容が理解しやすいよう適宜改行を行なった。

翻訳

島(insula)は海にある(in salo)ことに由来してそのように呼ばれる1。その中でも、多くの昔の人々が巧みに熱意を持って探究した、非常に有名で重要な島々は注目されるべきである。

ブリタニア(イギリス)は間にある海によって、全大陸から切り離された島である。ブリタニアという名前はその[住んでいる]民族の名前2から取られた。この島はガリア(フランス)に向かい合って、ヒスパニア(スペイン)の方を向いて位置している。その周囲は4875マイルである。この島には多くの大きな川や温泉があり、豊富で様々な大量の鉱物がある。ここは褐炭と真珠に満ちている。

タナトス島(Tanatos isnula, サネット島)は、狭い入江によってブリタニアから隔てられている、ガリア海峡(ドーバー海峡)にある海の島である。この島には穀物のための平地や肥沃な土壌がある。そしてタナトスという名前は蛇の死に因んでそのように呼ばれる3。それは、この土地には蛇はいないのだが、ここ土がどんな土地に運ばれたとしても、直ちに[運び込まれた土地の]蛇の命を奪うからである。

最果てのトゥーレ(Thyle ultima, Θούλη)とはブリタニアを超えた北西の地帯の内にある海の島である。sol(太陽)に由来してそのような名前なのである4。それはこの島では、太陽は夏至をなし、この島を超えるといかなる日の光もないからである5。それゆえ、この島を取り巻く海は動きがなく、凍っているのである。

オークニー諸島(Orcades)はブリタニアの中に位置する、海にある33の島々である。その内の20の島々は無人島であり、13の島々は人が住んでいる。

ヒベルニアとも呼ばれるスコティア(アイルランド)はブリタニアの隣の島であり、土地の広さではブリタニアより狭いが、位置のおかげでより肥沃である。この島は北西から北へと伸びている。 より先の部分6イベリア半島カンタブリア7へと伸びている。それゆえにヒベルニアと呼ばれる8。スコティア(Scotia)はスコット人(Scoti)が移住したことからそのように呼ばれる9。この島にはヘビは全くおらず、鳥はほとんどおらず、蜂はまったくいない10。それゆえ、もし誰かがこの土地から持ってきた塵や小石を他の土地の蜜蜂の巣へばら撒くならば、蜜蜂の群れは巣を捨てるだろう。


  1. この語源説明*en-sal-o- ‘what is in the salt(y)’ > ‘in the sea’ > ‘island’ は音声に限れば理論的には可能である。語源は不明で、何らかの言語からの借用語かもしれない (Etymological Dictionary of Latin, p. 306)。

  2. ブリトン人のこと。

  3. θάνατος (タナトス): 死.

  4. トゥーレの語源は説明されず、ultima(最果ての)の方が説明されている (Canale, II p.204)。

  5. Barney et al. 注7, p.294.
    “The sense is, or should be, that the term Ultima, "farthest,” describes the limit of hte sun’s reach at the Arctic Circle at hte winter solstice; Thyle is dark all winter."

  6. 大陸側から見てより先ということ。地図では南端に当たる。

  7. カンタブリア海 - Wikipedia

  8. HiberniaをHiberiaとの語呂合わせで説明している。

  9. Barney et al. 注8, p.294
    “In early medieval writings the inhabitants of Ireland were called Scotti, and those of Scotland called Picts - but cf. IX. ii. 103.”

  10. ギラルドゥス・カンブレンシスは『アイルランド地誌』1.3でイシドルスの記述の誤りを指摘している。(有光秀行 訳)
    「この島は緑地・牧草地、蜜と乳、ワインにあふれているが、ブドウ畑についてはそうではない。しかし、ベーダは、いろいろこの島のことを褒めている中で、ここにブドウ畑があると述べている。またソリヌスとイシドルスはミツバチがいないという。しかし、三人が許してくれたらと思って言うのだが、彼らはもっとよく観察していたら逆に書いたであろう。つまり、アイルランドにはブドウ畑はないが、ミツバチはいる。」